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悪餓鬼ダニーの成長録 〜天〜

 

 かわいい子供の映像は視聴率が取れる。コレはテレビで耳にする事があるが、MVでも子供を出演させているものを見るとつい目がいってしまう。

 

 Biggyの「Sky's the limit」ではBiggyやDiddy、Kimの役を子役が演じていたり、Nasの「I can」では曲自体の受け手として子供たちが登場していたりしている。どちらの曲も、表現の端々にPTA的にはよろしくない箇所もあるかもしれないが、言わんとすることには下の世代に向けてのメッセージがあり、子供達も表面的にはお行儀良く映っている。

 一方で、Danny Brownの「Grown up」に出てくる子供はまさに悪ガキ・オブ・悪ガキ。悪童の名に相応しい堂々たる振る舞いを見せてくれている。

 

 Danny Brown自身は10年代にブレイクしたラッパーだが、当時すでに30代であり同時期にブレイクしたラッパー達よりも年齢は一回り程上である。その特徴的な容姿や甲高い声、ラップをノセているエキセントリックなビートなどもあいまって一見するとニューウェイブのキワモノ的な印象もある。
 だが、2008年の彼のアルバム「Hot Soup」などを聞くと、90年代を彷彿とさせる様なトラックにキャリアを感じさせてくれるラップをのせている。「Grown up」にしても、オーセンティックなビートに、曲の題材も自らの生い立ちを振り返ってラップするというオーソドックスなスタイルだ。

 MVも冒頭では子供がラップしているだけの一見微笑ましいものに見える。しかしそこはさすがのDanny。リリックが進むに連れそんな微笑ましさをぶち壊す悪ノリを魅せてくれる。

 ここで歌詞の内容が多少道徳的でないことを責めてもHIPHOPでは野暮というものだが、この内容を口パクとはいえ子供に歌わせるのはさすがと言わざるを得ない。
「ノートに落書きして宿題なんてやらなかったぜ」

まぁ、この程度であればやんちゃな子供だなぁで済むのだが、
「今じゃ昼飯までブラントを吸う」
だとか
「初めて吸った時、ガキの肺にはキツかった」
などと言い出すと「この子の親御さんはどう思うのだろう……」と心配になってくる。

 そんな心配などどこ吹く風のMVの悪ガキ役の悪ガキ君はそのラップに恥じない悪逆の限りを尽くしてくれる。そして「俺に会うとビッチは濡れる」と、見事なラップをかましながら水鉄砲でカメラを濡らしてくる。最後に「Grown up」と言いながらぜんぜん成長してなさそうなDanny本人が登場するくだりも面白いが、やはりこのMVの最大の功労者は悪ガキ役の悪ガキ君だろう。こんな前歯のない悪ガキをいったいどこで見つけてきたんだ?というほどのばっちりなキャスティングだ。

 シンプルなビートと子役を使った平凡とも思える演出の中に、アーティストの尖りが子役の演技によってうまく引き出されている。アクの強いアーティストの姿を素朴なイルマチックさで描いた作品。

ぜひお子様連れで見ることはお勧めしません。

 

Danny Brown – Grown Up

 

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