ロマンスグレーなプロレス大会 〜天〜
前々回では子役をダシにしたMVを紹介したが、今回はロマンスグレーが活躍するMVを。
まず、ロマンスグレーMVとしてパッと思いつくのがFat Boy Slimの「Weapon Of Choice」だ。疲れた顔をしたChristopher Walkenが、突然華麗なステップで高級ホテルの中を縦横無尽に踊りまくるという内容。
やはり年輪を重ねた男の渋みというものは、モニター越しにもジワリと伝わって来るものがある。一方で、スーツ姿の紳士がハメをはずす姿は、ちょっとした面白みや驚きと共に、人間誰しもこういうものだという目からある種の鱗を落としてくれる。
そして、2017年DJ Shadowの「Nobody Speak」は、「Weapon Of Choice」とはまた違った意味で、スーツ姿の紳士たちの裏に隠れた人間性を皮肉たっぷりに描き出している。
舞台はどこかの国際会議場のような場所。
にらみ合う二人のロマンスグレー。
赤ネクタイ(声:El-P)VS青ネクタイ(声:Killer Mike)の一本勝負。
出だしから「ち○こ食わせる」だの「う○こしてやる」だのの応酬で、周囲が思わず眉をひそめる。ここでKiller MikeとEl-Pが自分らのラップに「まずいですよ~」みたいな白々しい顔をしてチラッと出演している。だんだんとお互いがエスカレートしていき赤ネクタイが、
「おい、面白いジョークを聞かせてやろうか?」
と、言うと、フックである、
「しゃべんなきゃ、首は締めないぜ」
と、かましてくる。
「笑えねーよ」みたいな雰囲気となり、シーンと静まり返る会場。
ここで青ネクタイがポツリと一言......。これに赤ネクタイはぶち切れ。
「さっさと逃げねーとそっち行くぞコラー!!」
と、なると青ネクタイも負けじと、
「こちとらチャーリーブラウン共から金まき上げてスヌーピーと吸ってんだぞ!」
と、かなりカッカきています。
もみ合いながらついに青ネクタイの右ストレートがクリーンヒット。後はもう目潰し、凶器攻撃などなんでもありの大乱闘。
前半の歌詞は、ちょうど二つの陣営が言い争っているように聞こえなくもない構成なので、そこを巧みに利用した演出が見事にはまっている。折りしもこの「Nobody Speak」のMVをとっていたのは2016年のアメリカ大統領選挙の真っ最中。 歌詞のちょっとアレな内容も、トランプとヒラリーの権力闘争が如何に醜悪であったかをあらわしているかのよう。
「お偉いさんたちの尻拭いは結局庶民に回ってくる」
歌詞と絵面は汚いがオチはきれいについている、ポリティカルだが笑えるMV。
DJ Shadow - Nobody Speak